ポートフォリオで見せる「見えない努力」:HTML/CSS/JSコード品質の伝え方
はじめに
「成果を魅せる学びポートフォリオ」をご覧いただきありがとうございます。このサイトでは、プロジェクトやアウトプットを通じて学習成果を効果的に伝えるポートフォリオ作成について解説しています。
ポートフォリオというと、完成したWebサイトのデザインや機能といった「目に見える成果」に焦点を当てがちです。しかし、採用担当者は、応募者がどのような過程で成果を生み出したのか、そしてこれからどのように成長していくのか、といった点も重視しています。特に未経験から新しい分野に挑戦する場合、実務経験の不足を補うために、技術への真摯な向き合い方や、将来的なポテンシャルを示すことが非常に重要になります。
そこで本記事では、Web制作の基礎であるHTML、CSS、JavaScriptのプロジェクトにおいて、成果物としては見えにくいものの、エンジニアにとって非常に重要な要素である「コード品質」や「可読性」をポートフォリオでどのように示し、アピールするかについて解説します。ていねいなコードを書く努力や、改善への意識といった「見えない努力」を採用担当者に伝えるヒントを提供します。
ポートフォリオにおけるコード品質・可読性の重要性
完成したWebサイトはユーザーにとっての成果物ですが、その内部にあるコードは、開発者や保守担当者にとっての成果物と言えます。採用担当者は、完成物の裏側にあるコードを見ることで、応募者の技術力だけでなく、以下のような側面を評価します。
- メンテナンス性: 他の人が読んでも理解しやすいコードは、後からの修正や機能追加が容易です。
- 保守性: 不具合が発生した際に原因を特定しやすく、長期にわたってプロジェクトを運用する上で重要です。
- チームワーク: 他の開発者と一緒に仕事をする際に、標準的な記述や読みやすいコードを書くスキルは不可欠です。
- 学習意欲と成長性: コードの品質に気を配る姿勢は、より良いコードを書こうという向上心や、自ら学んで改善していく力があることの表れと見なされます。
- 基本的なエンジニアリングスキル: 整然としたコードを書く能力は、論理的思考力や細部への注意力といった、エンジニアリングの基礎となる能力を示唆します。
特に未経験の場合、高度な技術スキルを示すことは難しいかもしれませんが、コード品質や可読性への意識を示すことは、基礎を大切にする姿勢や、将来的なキャッチアップ能力のアピールに繋がります。
コード品質・可読性を示す具体的な要素
HTML、CSS、JavaScriptのコード品質や可読性を構成する要素は多岐にわたりますが、ポートフォリオでアピールする際に意識したい代表的なものを挙げます。
- 命名規則の統一: 変数名、関数名、クラス名、ID名などを、プロジェクト内で一貫したルールに基づいて命名しているか。例えば、キャメルケース、スネークケース、BEM規則など、何らかの規則を採用し、それに従っていること。
- 適切なインデントと空白: コードブロックやネストの深さが視覚的に分かりやすく、読みやすいようにインデントが整えられているか。演算子やカンマの周りに適切な空白が挿入されているか。
- コメントの活用: コードの意図や複雑な処理について、分かりやすいコメントが付加されているか。ただし、全ての行にコメントを付けるのではなく、必要不可欠な箇所に絞ることも重要です。
- 関数の粒度と役割: JavaScriptの場合、関数が単一の役割を持ち、長くなりすぎていないか。
- DRY原則(Don't Repeat Yourself)の意識: 同じようなコードの繰り返しを避け、共通化する努力をしているか。CSSであれば、変数やミックスインの活用など。
- シンプルで分かりやすい記述: 無駄な記述を避け、よりシンプルで理解しやすい方法でコードが書かれているか。
- フォーマッターの利用: Prettierなどのコードフォーマッターを利用して、コードスタイルを自動的に整形しているか。
- リンターの利用: ESLintやStylelintなどのリンターを利用して、構文エラーやスタイルの問題をチェックしているか。
これらの要素を意識してコーディングすることは、それ自体が「ていねいな仕事」を示す行為となります。
ポートフォリオでのコード品質・可読性の見せ方
では、これらの「見えない努力」をポートフォリオでどのように具体的に伝えれば良いでしょうか。いくつかの方法を提案します。
1. リポジトリを公開し、READMEで解説する
GitHubなどのバージョン管理システムでプロジェクトのリポジトリを公開することは、コードそのものを見てもらうための最も直接的な方法です。ポートフォリオサイトからリポジトリへのリンクを必ず設置しましょう。
さらに重要なのは、リポジトリのREADMEファイルです。単なるプロジェクトの概要だけでなく、以下の点を記載することで、コード品質への意識をアピールできます。
- 採用したコーディング規約やスタイルガイド: 「このプロジェクトでは、[規約名]に基づいてコーディング規約を定めています」「CSS設計にはBEMを採用しました」など、意識して取り組んだ規範があれば明記します。
- 利用したツール: コードフォーマッター(Prettier)、リンター(ESLint, Stylelint)、CSSプリプロセッサー(Sassなど)、タスクランナー(Gulp, Webpackなど)など、開発効率やコード品質向上のために導入したツールがあれば紹介します。
- コードの工夫点: 「関数の命名は、処理内容が分かるように具体的に記述しました」「繰り返し出現するスタイルはCSS変数にまとめました」「複雑な処理にはコメントを付加しました」など、具体的な工夫点を言語化して説明します。
- ディレクトリ構成の意図: なぜそのようなファイル・ディレクトリ構成にしたのか、その意図を説明することで、整理されたコードを意識していることを示せます。
READMEは、採用担当者が最初にコードの全体像や開発者の意図を把握する重要なドキュメントです。ていねいに作成しましょう。
2. ポートフォリオサイトのプロジェクト詳細ページで解説する
個々のプロジェクト紹介ページで、完成した成果物だけでなく、開発プロセスや技術的な工夫点について解説するセクションを設けます。
ここで、コード品質や可読性に関して特に注力した点や、難しかった点、それをどのように解決したかなどを具体的に記述します。「この部分のJavaScriptコードは、当初可読性が低かったため、関数に分割し、変数名をより分かりやすいものに変更するリファクタリングを行いました」「CSSのセレクタの命名には、BEM規則を適用することで、クラス名の衝突を防ぎ、どの要素にどのスタイルが当たっているか分かりやすくしました」のように、具体的なエピソードを交えると説得力が増します。
可能であれば、改善前後のコードスニペットを比較して見せることも有効です。ただし、コードスニペットは長すぎず、アピールしたいポイントが明確に伝わるように抜粋しましょう。シンタックスハイライトを適用するなど、見やすさも意識してください。
3. コード規約やリンターの設定ファイルを添付・紹介する
もしプロジェクトで独自のコード規約ファイル(例:.eslintrc.js, .stylelintrc.json)を作成したり、エディターの設定ファイル(例:.editorconfig)をコミットしているのであれば、それらをリポジトリに含めること自体が、規律を意識していることの証明になります。READMEやポートフォリオサイトで、「これらの設定ファイルを通じて、プロジェクト全体のコードスタイルを統一しました」といった説明を加えると良いでしょう。
未経験者がコード品質アピールで意識すべきポイント
未経験の場合、完璧なコードを書くことは難しいかもしれません。しかし、だからといってコード品質を諦める必要はありません。重要なのは、「より良いコードを書きたい」「学ぶ姿勢がある」という意欲と、そのための努力の過程を示すことです。
- すべてを完璧にする必要はない: 最初からプロのようなコードを書けなくても問題ありません。まずは命名規則を統一する、適切なインデントを心がける、短いコメントを付ける、といった基礎的なことから始めてみましょう。
- 改善の過程を示す: プロジェクトをいくつかのフェーズに分け、コードを改善していった過程をポートフォリオで示すことも有効です。「最初のバージョンではコードが複雑でしたが、リーダブルコードなどの書籍を参考にリファクタリングを行い、可読性を改善しました」といった記述は、学びながら成長していることをアピールできます。
- ツールを積極的に活用する: リンターやフォーマッターは、コード品質を向上させる強力な味方です。これらのツールを導入し、その設定方法や使い方を学ぶこと自体が、技術的な学習意欲の証となります。
- レビューの経験があれば記述する: もし学習コミュニティなどでコードレビューを受けた経験があれば、その経験や、レビューを受けてどのようにコードを改善したかを記述することは、フィードバックを受け入れ、成長する力があることを示せます。
採用担当者はコードから何を感じ取るか
採用担当者は、コードそのものの技術的な正しさに加えて、そのコードから書いた人の「姿勢」や「ポテンシャル」を読み取ろうとします。
整然としたコードは、物事を論理的に考え、整理して進める能力を示唆します。適切なコメントや分かりやすい変数名は、他者への配慮やコミュニケーション能力にも繋がり得ます。リンターやフォーマッターの活用は、最新のツールや慣習を学び、効率的に開発を進めようとする意欲の表れと見なされるでしょう。
これらの「見えない努力」は、未経験者が実務経験の不足を補い、「一緒に働きたい」と思わせる大きなアピールポイントとなり得ます。
まとめ
ポートフォリオで成果物を「魅せる」ことは重要ですが、その成果を生み出した過程や、開発者としての基礎的な姿勢、そして将来的なポテンシャルを示すことも同様に重要です。HTML、CSS、JavaScriptでのプロジェクトを通じて、コード品質や可読性といった「見えない努力」に意識的に取り組み、それをポートフォリオで具体的に伝えることで、採用担当者にあなたの技術への真摯な向き合い方や成長性を強く印象付けることができます。
完璧を目指すのではなく、学びながら改善していく姿勢を示すことが、未経験からのキャリアチェンジにおいて非常に有効な戦略となります。ぜひ、あなたのポートフォリオにコード品質への意識を反映させてみてください。